
トランプ政権で非アメリカ人への風当たりが強くなってから、米国市民権(US citizenship)を取得する日本人が増えていますが、日本人は米国で永住権までは取得する物の、なかなか市民権を取得しない国民でした。大きな理由は日本が安定していて、将来は日本に戻ろうと考えている方が多いようです。また、自分は日本人という事にプライドを持っている方も多いでしょう。
私はあまり考えなしに取得してしまいましたが、「将来は日本に帰る可能性を否定しない人」はアメリカ市民権を取得するべきかどうか考察してみましょう。
市民権取得のプラス、マイナス
プラス
海外の仕事が取れる、海外に住める
米国市民権を取得する一番大きなメリットは、「米国に居れる」ではなくて、「米国を出れる」事かも知れません。
例えば、良い仕事が海外で見つかったり、親族の体調が悪くなったりした時、長期間において米国を留守にしたい時があるとします。
グリーンカード(永住権)で米国に住んでいる場合、半年間以上留守にすると、再度入国の際に入国審査で米国に住む意思が無いとして、グリーンカードを剥奪される恐れがあります。その点、市民権を取得してしまえば、米国国民なので、どれだけ海外に出ても、帰ってくればWelcome home!と迎えてくれるわけです。
特に仕事でグリーンカードを取得した方は、外国、もしくは日本で良い仕事が見つかる可能性もある訳です。そうした時に米国に住む権利を無くすことなくチャンスに飛びつけます。
連邦遺産税(gift tax, Estate tax)がかからない
夫婦両方が米国市民だと、片方が亡くなった時に連邦遺産税は掛かりません。しかし、受け取る方が非米国市民ですと、自国に持ち帰って亡くなってしまう可能性があり、相続税(estate tax)が取れなくなってしまうので、贈与税(gift tax)が発生します。年間$110,000までの贈与には税金がかかりません。これを超えると、一人当たりのestate tax控除額の$1,000,000に食い込んでしまします。
私は税理士ではないので、詳細を書くのは避けますが、ポイントは配偶者が亡くなっても、お互い市民であれば税金は発生しないが、非市民だと発生するという事です。
選挙権
米国の選挙権が与えられます。
市民権を取るマイナス点
日本国籍を剥奪される
アメリカは二重国籍を認めていますが、日本は認めていないので、米国市民権を取ったら、日本の市民権が剥奪されます。今でも、すでに米国市民になっていながら、日本のパスポートを更新し続けている方もいらっしゃいます。米国を米国パスポートで出国して、日本に日本のパスポートで入国すると言ったやり方をしている人もいますが、電子チップの導入などでどんどん難しくなっています。
そういった違法の入国の仕方をしない限り、アメリカ人には日本に長期間滞在、就労する権利はありませんから、在留許可書を取らなければなりません。これは、元日本人であれば、(現在は)問題なく取得できるはずです。
陪審員義務Jury duty
住所近くで行われる裁判の陪審員義務が発生します。米国企業では、会社支払いで陪審員義務に務めるために有給で休みをくれる所が多いですが、そうであったとしても、得する物ではありませんし、うれしいものではありません。
ネィティブではないので100%ではない聞き取り能力で被告人の人生を判断するのは抵抗もあります。
他に知っておくこと
国民年金Social security
ソーシャルセキュリティーは、米国での就労中に積み立てた、いわば国民年金のようなものですが、驚くことに市民でなくても米国内在住であれば、需給する事が出来ます。驚きですね。
プロセス
グリーンカードの取得で苦労した方は、構えていますが、米国市民権の取得はその響きよりもずっと簡単です。仕事で取得したグリーンカードの場合は取得から5年以上、結婚によって取得した場合は3年以上が経過すれば市民権の申請が出来ます。あとは英語でのコミュニケーションが“それなりに”出来る事が条件になります。
USCISにN-400フォームを申請して、米国の歴史についてのテストがあります。最後は宣誓をして市民になります。
トランプ政権になってから、書類確認項目が増え、交付に時間がかかるようになってしまったようです。
最終的には帰ろう、日本人に戻ろうと思っている方へ。
元日本人の方は比較的問題なく、在留許可証取得、外国人登録、そして数年後に永住権の取得までスムースにいきます。永住権を取得することで、日本に永住できるだけでなく、制限なく日本で就労出来ます。
年金も外国人である事に制限はなく、25年以上日本での収めた実績があれば日本人と変わらずに受給することが出来ます。
健康保険も日本人と変わらずに納付義務、需給権利があります。
銀行や、家のローンも大抵の所で問題なく得る事が出来ます。
こんなことから、ほぼ一生、外国人のままであっても、日本人とほとんど変わらない生活をする事が出来るのです。
ただ、いくつかのマイナス点があります。
米国市民権を取って日本(外国)に居続けるマイナス点
米国での納税義務
米国への納税義務は続きます。日本に戻る場合は必ずしも2重課税になるわけではなく、日本で支払う税金額によって米国への納税が免除されます。相当に大きな収入でなければ実際に2重課税になる事は少ないようです。
この義務は、市民権だけではなく、グリーンカードを取得した時点で発生します。そして、市民権放棄、グリーンカード放棄後も10年間継続しますので、注意が必要です。
米国外に保有する金融資産の開示義務
米国外に有する全ての金融資産のIRSへの開示を義務付けられています。銀行口座、株式、全てです。
この義務も同様に、市民権だけではなく、グリーンカードを取得した時点で発生します。そして、市民権放棄、グリーンカード放棄後も10年間継続します。
株式投資、投資信託の制限
ここ数年で日本の投資信託などの物件が増えてきましたので、それほど問題が亡くなってきましたが、米国人はマネーロンダリングの為に投資項目が限られています。また上記の金融資産の開示が義務付けられたため、法的な対応をしていない証券会社、銀行等への登録が断られることがあります。人気のSBI証券や楽天証券は外国人の口座開設が出来なくなっています。

米国市民権を放棄するという選択
米国市民権を放棄する(forfeit US citizenship)という選択肢があります。上記のマイナス点に悩まされた場合(放棄した後も10年は続きますが)、年を取ってからの米国の役所対応などが辛くなってきた場合などでしょうか?(今のところ、それ以外に日本に籍を戻す理由は考え付きません。)
米国市民権を放棄する場合
A)放棄以前の課税対象額が平均$124,000を超える場合、
B)総資産が$2,000,000を超える場合、
C)過去五年間に税金の誤申請があった場合、
総資産の20%が課税されます。
これだけ持っている人がどれだけいるかは分かりませんが、米国国税局(IRS)からしてみたら、税金をむしる最後のチャンス、むしってきます。
さぁ、今回は市民権に対する考察でしたが、将来日本に帰る場合でも、税金手続き、金融資産の開示義務、株式投資物件の制限、老後の米関係手続きに目をつぶる事が出来れば、米国市民権を取得するリスクが無いと言えると思います。
それよりも、いつか日本に帰る事を考えて市民権取得を控えていた人が、仕事の解雇によって(金銭的な理由で)日本帰国の選択をせざるを得ない場合、大抵が市民権取得が間に合わず、他の米国滞在の権利も持てず、帰国していきます。その後、米国で働く事が一気にリアルでなくなります。
ある程度の年齢になると転職が難しくなる日本に、今まで長く住んできた「アメリカに帰る選択肢なし」で働くのは苦しそうです。