

私が日系米国支社で働いていたの頃、
オフィスで深夜まで仕事をしていて、外に出て煙草ブレイクしていた所、同じ出向中の副社長も外に出てきました。
直ぐ近くには当時成功して一線を走っていた米国企業がそびえたっていました。
時間はもう12時を打とうとしている所、シンデレラも帰らなければならない時間です。
彼は言いました。
「あのビルを見ろよ。まだ電気が点いてる。この時間まで社員が仕事をしていたら、そりゃ伸びるよな。」「うちなんか6時にはもう誰もいないからな。」と苦笑いしていました。
私は何故か一末の違和感を感じて聞いていましたが、そういう私も当時アメリカ人採用の際に「残業は出来ますか?」「長い時間働けますか?」を面接で必ず聞く項目にしていました。
長時間働く日本人
日本人は、仕事に対する前向きな姿勢「頑張る」を仕事に費やす労力と時間で測る傾向があります。これは韓国、中国系の会社でも同じ基準で考えられているらしいです。
米国の転職サイトでは、日韓中の会社で働く場合のマイナス点としてneed to work long hours、長時間労働が挙げられています。
基本的に日本人の会社に対するイメージが、「おみこし」ようなものであり、それを担ぎ続ければ、前へ進む。一人では進まないので、協力して担ぐ。誰かが脱落したら残った人で補って担ぐ。もちろん本社からの無理な要求があっても、アメリカ人が皆定時で帰れば、残った日本人社員で担ぐ。それでないと「おみこし」が存続、繁栄できないからだ。

長期的に稼ぐ個体として存在している事から、「おみこし」は生物ではないかと錯覚することさえある。
それに対して:アメリカ人の視点
欧州や米国では会社という個体の存続を重要視しない。むしろCompanyを「スキルを持った部品の一時的な会合」と捉えており、
そもそも部品が残業をしないと成功しない会合はプロジェクトとして成立しないと考える。つまり「成功する仕組みが無いダメなプロジェクト」という事になるのである。
アメリカ人は「そんな駄目なプロジェクトに対して自分の大切な業務外の時間をプレゼントする価値があるか?」「そもそも儲からない仕組みなのに、儲からないからって、自分たちの時間を差し出して会社の利益にするのか?」と考える。
そう考えてみると、アメリカ人が残業する訳がないのだ。
そしてアメリカ人はこうも言うだろう。
「仕事ばかりしていては効率が落ちる。Counter productive(生産性をより下げる)だ。」
「きちんと休んでリフレッシュした方が効果が上がる」
こんな言葉がアメリカ人は大好きだ。
Work smarter, not harder.
より激しくではなく、より頭良く仕事をしよう。
また、映画シャイニングでは主人公が仕事をし続け狂っていき、繰り返しタイプする内容が、
All work and no play makes Jack dull boy.
仕事ばかりで遊びがない状態がジャックを鈍い奴にする。
これも、会社を「スキルを持った部品の一時的な会合」と考えたら、当然の事で、スキルを持った部品が、決められた時間、集まって働く訳だから、リフレッシュして効率が良い状態で決められた時間力を合わせた方が良いに決まっているのだ。
日本人的に考えると、とにかく沢山の仕事量を上げなければならない場合、効率よく短時間働くよりも、もちろんとにかく沢山働いた方が結果的に量は仕上がるのは事実だ。
しかし、会社というものを“個“とも思っていないし、長期的に関係を持っていかない物に自己犠牲をする理由はどこにもない。
これが仕事に対する考え方だが、アメリカ人にはもっと事情がある。
アメリカ人の事情
日系支社であっても、基本的にアメリカの会社は年俸制であるので、残業した所でお金にはならない。
また、アメリカ人はGlass ceiling(ガラスの天井)、を感じている。Glass ceilingとは女性が男性の様に出世できない見えない天井の事を言うが、日本本社が圧倒的な上位としてある事からも、自分達が最終的に組織の上位に上がれるとは思っていない。出世は非常に限られているように見える。
そして何よりも大きいのが離婚である。
日本でも最近家庭の時間の大切さが謡われてきているし、かつてのモーレツ社員的な人は減ってきている傾向にあるが、それでも稼ぎ手が家族のためにいろいろ犠牲にするのが、米国に比べると相当認められている。
米国での女性解放はかなり進んでいて、収入面を男性に頼らずに生きていける、結婚関係が「全く対等の個々が惹かれあい、お互い尊重して共同生活をする」ものだとすると、家族をないがしろにして仕事をするのは、結婚に対する背信行為です。
米国では片方の意向だけで離婚が出来るし、実際私の周りで結婚経験者で離婚経験のない人はほぼいなかった。(今の世相、1990年代生まれ以降は少し違うらしい。)
そして、離婚をすれば、親権を巡った法廷でのバトル、Alimony養育費、など、言わば生き地獄になります。
私生活にこれだけのリスクがあれば、定時間以上働く事に相当の理由を求めるでしょう。
出来る限り、長時間働かず、頭良く働くように考えます。
これは日本人の「仕事を頑張る」と言うのと食い違いますよね。

純粋米国企業はアメリカ人を長時間働かせられる
それでもアメリカきぎょうはアメリカ人を働かせられる。
それでは、多くの米国企業で皆が定時で帰っているかというとそうでもありません。
アメリカでも、無理な企画を無理な期間で仕上げねばならない状況は良くあります。個人的な印象だと、米国企業の方がむしろ多い気がします。しのごの考えずに、Brute force物凄い力で、”とにかく上げる”のです。
大きな会社であるのは、本社にまさに処刑人ExecutorとかPunisher的な雰囲気をもっている、「プロジェクトを終わらせる仕事人」的な人がいて、進みの悪い支社に派遣されます。
彼は支社で何が起こっているのか全てを解体し、機能していないボトルネックがある時は追い出し、プロジェクトを終わらせる人事をし、各セクションに命令を出し、プロジェクトを終わらせます。
毎日深夜の02:00にdaily review(毎日の仕事確認)を入れる等、問答無用で帰れない状況と、仕事を上げないと吊るし上げられる環境を作ります。
これで終わらせていく現場を何度も見てきました。
小さい会社では、社長が罵倒中傷を繰り返し、無理やり働かせて何とかする場面も良くあります。
そうなんです。
日系支社では、なんとなく気後れして、「アメリカではこうなのか。。」と日本人駐在員が出来ない事を、米国企業では結構無理やりやっているのです。
もちろん優良な会社は職場環境の良さで生産性を上げているかもしれません。でも現実的にはそれはtoo good to be true.(本当であるにはうますぎる話し)です。
ただ、もちろんこれには問題があります。
Litigation(訴訟)に発展する可能性があるのです。米国では誰でも、勝機があれば訴えます。実際に夫が数か月にわたり深夜まで働いてくるのに妻たちが会社を訴えたケースは普通にあります。
私もそのケースを目撃した事があり、会社が3億円の賠償金を社員達に払っていました。(私も分け前に預かりました;-)
要は、このリスクをしょって社員を無理に働かせる事に価値があるかです。商売によっては3億円なんて微々たる金額である事もあるでしょう。(セクハラの賠償額で起こる数十億円に比べたら微々たるものです。)
日系子会社でも、訴訟が起こった時に十分対応できる社内組織がある所もあります。
これが米国人に長時間働いてもらう事の全体像です。
まとめ
- 日本人は沢山働く、日本企業は無意味に沢山働かせたがる。
- 米国人には働きたくない事情がある
- それでもアメリカ人を働かせることは出来る。でもリスクはある。